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札幌高等裁判所 昭和38年(う)317号 判決 1964年1月18日

主文

原判決中その判示第一の四の罪に関する部分並びに同第三及び第四の罪に関する部分を破棄する。

被告人を右第一の四の罪並びに同第三及び第四の罪につき、それぞれ懲役四月に処する。

原判決中その余の部分に関する本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、札幌高等検察庁検察官西田隆提出の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人坂谷由太郎提出の答弁書記載のとおりであるから、いずれもここに引用する。

控訴趣意第一点について。

よつて案ずるに、原判決が被告人をその判示第一の一ないし三の罪につき懲役八月に処しながら、同第一の四及び第二の罪につき懲役四月及び罰金三万五千円に、同第三及び第四の罪につき懲役四月に各処した上、右懲役四月の各刑につき、いずれも三年間刑の執行を猶予する旨の言渡をしたことは検察官所論のとおりである。しかしながら、同一人に対するいわゆる実刑と執行猶予との関係について刑法第二五条、第二六条及び第二六条ノ二の各規定するところを総合して考察すると、(1)その者がすでに実刑に服しているときは執行猶予の言渡は許されず(第二五条第一項第一号)、もしそれが後に発覚したときは猶予の言渡は取り消され(第二六条第三号)、つぎに(2)猶予の言渡後実刑に処せられたときは前の猶予の言渡は取消され(同条第一号又は第二号)、さらに(3)二以上の執行猶予が競合している場合に一の猶予の言渡が取り消されたときは他の猶予の言渡も取り消されるべきものとされており、結局法は実刑と執行猶予との併存を許さない趣旨と見るべきである。したがつて、併合罪に当らない数罪が同時審判された場合において、その一につき実刑に処し、他につき執行猶予の言渡をすることについては、これを阻む明示の規定は存しないかのようであるが、一について実刑に処する旨の言渡をする以上、すでに実刑が確定している者に対すると同様他につき執行猶予の言渡をすることは許されないと解すべきである。この場合だけを異別に取り扱い、両者の併存を認めるべき特別の理由も存しない。これに反する解釈の下に被告人に対し前記執行猶予の措置に出たと認められる原判決は法令の適用を誤つたものであり、この誤は破棄事由に該当する。検察官の論旨は理由があり、弁護人の答弁は採用できない。

なお、検察官は原判決の全部に対し控訴を申し立てているが、原判示第一の一ないし三(懲役八月に処した部分)及び第二(罰金三万五千円に処した部分)の各事実に関しては、控訴の趣意として格別主張するところはない。

よつて、控訴趣意第二点に対する判断を省略し、原判決中主文第一項掲記の部分について刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条によりこれを破棄し、その余の部分に関する本件控訴は同法第三九六条によりこれを棄却し、右破棄部分について同法第四〇〇条但書にしたがい次のとおり自判すべきものとする。

原判決が適法に認定した原判示第一の四、第三の一及び同二の各罪はいずれも刑法第二五三条(ただし、右第三の一についてはなお同法第六〇条)に、原判示第四の罪は同法第二四六条第一項に該当する。しかるに、被告人には原判示(2)の確定裁判を経た罪があり、これと右第一の四の罪とは同法第四五条後段の併合罪であるから、同法第五〇条により未だ裁判を経ない右第一の四の罪につき処断すべく、所定刑期範囲内で被告人を懲役四月に処する。つぎに原判示第三の一、二及び第四の各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により犯情最も重いと認める右第四の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人の懲役四月に処する。原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書にしたがい被告人に負担させない。

よつて、主文のとおり判決する。

検察官富田孝三出席

(裁判長裁判官矢部孝 裁判官中村義正 萩原太郎)

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